由縁

2021年6月

続・長期休暇期間

近くに完成した温泉旅館の予約をした。世田谷代田にある由縁別邸 代田

由縁別邸 代田 | YUEN BETTEI DAITA | UDS Hotels | UDSグループホテル公式サイト
都心から最も近い温泉旅館。由縁別邸 代田は、日々の忙しさや都会の喧噪から逃れ、リトリートを多種多様なおもてなしで実現する宿泊施設です。

オープンしてからまだ1年経ってない時期ということもあり、綺麗で新しい旅館に泊まれることを喜んだ。

当日は妻の両親がマンション前まで迎えに来てくれた。
いつもの行き先は病院だが、今日は違う。
駒沢大学付近までは同じルートだが、そこから環七へ出る。
妻が子供の時から好きだった環七沿いのラーメン屋の話になる。

あのラーメン屋、まだあるのかな。
たしかもう閉店して、違う店になってた気がする。
そうなんだ。
そうだったっけ?この間は開いてたような。
また食べたいな。

他愛のない家族のあたたかい会話を聞きながら、宿に着々と近づいていった。

平日の幹線道路。
たくさんの人やものがこの幹を通って社会が動いている。

その流れから一時的に逸れて今は妻との時間を大事にしよう。
家族の会話を聞きながらそんなことを思った。

世田谷代田駅付近の狭い道路を抜けて無事目的地に到着。
車で入れるギリギリのところまで付けてくれた父に優しく微笑む妻。
感謝を伝えてチェックインへ向かう。

近場にこんなところがあったとは。
唐突に旅情を催させてくる。
コロナ禍で外泊自体も久し振りだ。

キャンセルした新婚旅行への未練はしっかりと残っていた。
近所の旅館へその埋め合わせを求めるのはお門違いだが、少々大きな期待を馳せていた。

一階の露天風呂付きの部屋を予約していた。
大浴場は妻の病状によっては行けない可能性があったし、二階は階段の上り下りに不安が残る。
要望を満たしてくれるちょうどいいタイプの部屋が残っていてよかった。

露天風呂から覗ける専用の庭園もある。

部屋につくなりルームツアーを始め、その豪華さを楽しんだ。
普段頑張ってるし、今日はたくさん満喫しよう。
観光旅行というわけではないので周りを巡るわけではないが、そう話した。

一頻り部屋を巡ったあとは、唯一の目的地である白髭のシュークリーム工房へ行った。

もともと気になっていたのだという。

店へは妻の足でも旅館から2-3分で着いた。
どの味にするかじっくり吟味して買った。

家族の分も合わせて5つ買った。味によって耳の飾りが異なる。かわいい。

部屋に戻り、夕食の時間までゆっくり過ごした。
妻はうたた寝していた。

調子が良かったのでお互い大浴場で湯を楽しむことができた。
女湯はほぼ貸切状態だったようで、のびのび過ごせたという。

夕食は旅館に併設された割烹で。
どれくらい食べられるか当日になってみないと分からなかったが、「美味しいものをたくさん食べたい!」という妻のリクエストに応えてコースを予約していた。

料理は思い出補正を抜きにしてもとても美味しかった。
一品一品を味わって食べた。
端の席に通してもらったこともあり、周りを気にせず二人の食事を楽しむことができた。

二人の好物であるうなぎが出てきたときは小声で沸いた。

贅。

素晴らしいコース料理に満足して部屋に戻った。

トトロのシュークリームを食べたり、部屋の露天風呂を楽しんだりして貴重な旅行の時間を楽しんだ。

お互い、これが最後なんだろうと少々勘付きながらも。
その場では特に触れることなく。
今を楽しむことに徹していた。

私はもう、妻の病気が治るとか治らないとかはあまり気にしないようにしていた。
ただ妻と一緒に居られるこの時間だけが唯一信じられる真実だったから、それにすべてを注ぐことにしていた。
残りの時間がどれくらいかということに引っ張られるよりは、残りの時間そのものに集中したかった。

もちろん希望は捨てていたわけではなかったが、妻と過ごせる日々を何より尊く思っていたので少し離れたところに意識を持つように変遷していた。

タイトルとURLをコピーしました