
2021年6月
2021年6月中旬、私の長期休暇期間が訪れた。
業務を多少強制的に引き継ぎ、1週間丸々休む。
半ば自転車操業状態のベンチャー企業に勤める身からすると、長期休暇の取得はとても勇気のいる行為だったが、上司が休暇中の引き継ぎを実施して存分に休んでくれと言ってくれたので覚悟を決めて従うことにした。
この長期休暇は1名ごとのローテーションで取得し、私だけが取得するわけではなかったため、変な後ろめたさを感じることはなかった。
この長期休暇と妻の体調・治療周期と上手く噛み合ったため、一緒に過ごせる期間をこの長期休暇で確保することが出来た。
偶然の産物とはいえ、本当に感謝している。
5月中に旅行計画はスタートした。
行きたいところをシェアしてテーブルに上げる。
具体的にどのような動きになるかを確認する。
そこへ現実的に行けるかどうかをディスカッションする。
久々にデートプランを練るようなことをして楽しく過ごせた。
妻の表情も幾ばくか明るくなっていたように思える。
6月。梅雨の時期ということもあり、雨の心配は付き纏った。
杖をついての移動のため、妻が傘を差すことは出来ない。
その上すべりやすいので注意が必要となる。
しかしそれを気にしていては計画は進まない。
仕事が終わると妻とあれこれ会話。
いろいろ行きたいところがあったとは思う。
出てきたリクエストは焼き肉屋と旅館。
あとは家で一緒にゆっくり過ごしたいという。
それならば、それらすべてを叶えられるよう、楽しめるよう。
変な気は遣わずにや受け止めた。
長期休暇期間突入
待ちに待った長期休暇が訪れた。
何でもないタイミングでの連休。
妻との予定がない日はランニングに精を出して過ごした。
勝手に走りに行って疲れて帰ってきて、勝手に充実感に浸る。
妻はそんな私を不思議そうに眺めていた。
お出かけは水・金・土で行くことになった。
水曜日は電車に乗って焼肉を食べに行った。
妻からのリクエストは高級店ではなく、業務スーパーを展開している会社が運営しているプレミアムカルビというチェーン店。
入院中にYouTubeで見てずっと気になっていたのだと言う。
幸い、同一路線上に店舗があったので妻の体力を逐次確認しつつ、電車で向かうことにした。
最寄り駅までは約8分。
健康であれば。
妻の身体では倍はかかる。
しかし、倍の時間をかければ駅に着く。
タクシーを呼ぶか、バスに乗るか、いくつか選択肢はあったが妻は自分の足で向かいたいようだった。
駅までの道は体調が良い日に何度か歩いていたので、ここは妻の思いを尊重して様子を見ながら行くことにした。
外出時は妻の祖母が使っていたお下がりの杖を使う。
杖が必要になった頃に妻の母が引っ張り出してきてくれた。
妻はそれをありがたく頼って使っていた。
片手で杖をつき、もう片手で手を繋ぐ。
足元には病気が分かってから妻の母が買ってくれたニューバランス。
歩きやすい靴をあまり持っていなかった妻は好んで履いていた。
無事駅まで辿り着き、改札に入る。
妻にとっては久々の電車。
一年弱振りの電車だ。
運がいいと車窓から富士山が見えるスポットを子どものようにじっと見ていた。
今回は見えなかったが、妻はこの近所の大冒険を楽しんでいるようだった。
そのまま数駅下り、下車。
下車駅のダイソーが見たいというので立ち寄る。
入院時に便利な細々としたものを買っていた。
Google Mapでの事前リサーチ通り、お店への道は平坦だった。

無事席まで辿り着いた。
弱った妻がここまで自力で来ることができるとは正直思っていなかったが、辿り着くことができた。
さあ、肉を食べよう。
これまたリサーチ済みのランチセットを意気揚揚と頼む。

たくさんついてきた小鉢を見て喜んでいた。
妻にはボリュームが多いかもしれないと思ったが、嬉しそうに完食していた。

食後はプレミアムカルビの特徴である充実したデザートビュッフェを堪能した。
ジェラートもスイーツも多種多様。
妻も6種くらい食べていた。
こっちが本命だったらしい。
ホットコーヒーと共に楽しんだ。

満腹になって退店。
帰りはタクシーを使うことになるだろうと踏んでいたが、妻はまだ歩けるという。
たしかに、さっきまで座ってたし。
家と病院を車で往復する日々。
イレギュラーがあったとしても、妻の父の車ではなく救急車になるくらいで行き先は変わらない。
そんな日々を考えると、多少の疲労が残ったとしても自分の足で出掛けるその行為そのものを妻から取り上げる気になることはできなかった。
行きと同じ道を丁寧に辿って歩く。
電車に乗る。富士山は見えなかった。
家に帰ると妻は満足感と疲労感で横になり少し寝た。
「付き合ってくれてありがとう。せっかくの休みだから、自由に過ごしてね。」
一緒に焼肉屋へ行っただけなのに、こんな言葉をくれた。
私はその間に多摩川を14km走った。
こうして妻と過ごせる貴重な連休ははじまった。