
2021年9月19日(日)
前回の記事の翌日。
前職の妻の同期たちが遊びに来てくれた。
この日の妻は調子が良さそうに見えた。
毎度のことながら、妻は悟ったように、自分がいくらも余命がないことを感じさせない謙虚さで振る舞っていた。
冗談を言い合える同年代の仲間と会えて、妻は力をもらえたようだ。
最後まで湿っぽくならず、またねと言ってこの日の挨拶は終わった。
みんなわざわざ来てくれて優しいね、と笑う妻の表情を覚えている。
9月に入ってからは激務が続いており、1LDKで一緒に住んでいてもなかなか日中のコミュニケーションが取れずにいた。
日中はデスクに張り付いて、夜ご飯と風呂を済ませて再度デスクに向かう日々が続いていた。
そのため、休日は妻とコミュケーションを取るチャンスだった。
いろんな人を招いて妻の悔いをなくすのはもちろんだが、夫婦での会話ももちろん大切にしたかった。
そんな背景がある中で、妻に寝室へ呼ばれた。
この頃は妻の母が泊まりこみで世話をしてくれていたので、二人の空間は久々だった。
ベッドで添い寝すると、妻はいつになく真面目な顔で切り出した。
私、もう長く持たないと思う。
先生から余命聞いた?
薬の量もこれ以上増やせないところまで増やしてもらってる。
もう、終わっちゃうかもしれない。
でも私楽しかったよ。
凌くんに出会えてよかった。
会社で気配を消していた私を見つけてくれてありがとう。
結婚できてよかった。
幸せだよ。
ありがとう。
ひとりでいいと思ってたけど、結婚してよかった。
凌くんはまだたくさん人生を楽しんでね。
いろいろ制限しないで自由に生きてね。
楽しいこといっぱいあるよ。
私は子供を産めなかったけど、この先、きっといい人と出会えるから。
迷いなく幸せになるんだよ。
私のことは変に気にしないでね。
私は本当に幸せだよ。
だから、いつか出会う奥さんを愛してあげてね。
子供も、いつかできたらたくさん愛してあげてね。
凌くんの子供に生まれ変われるかな。
先にいなくなってごめんね。
今ならちゃんと話せるから、伝えた。
ありがとう。
大好きだよ。
私はすべてに頷いて、痩せ細った妻の身体を強く抱き締めた。
尋常じゃない量の涙と鼻水を流して、妻に笑われながら、ありがとうと精一杯伝えた。
気が早いよと言ってしまったが、この時には妻はもう限界を感じていたのだろう。
瞬間瞬間で、最期かもしれないと思って生きていたのだろう。
そんな中で、振り絞って、私にこんな素敵な言葉をかけてくれた。
私がこの先の人生で妻のことを変な背負い方をしないように先回りして言ってくれた。
自分の人生がいつ終わってもおかしくないこのタイミングで。
私がこの先の人生を、自分の人生を生きられるように。
正しく、全部背負って生きていこうとこの時覚悟しようと思った。
このとき、妻の人生が私の一部になった感覚を覚えた。